選挙の現場
元来、無所属の議員とは、無所属であるが故に、政党の選挙を手伝わなくても良い。
衆議院選挙にしろ、参議院選挙にしろ、都議会議員選挙にしろ、自分が候補者ではないが、同じ政党から出ている候補者を応援することが、政党人としては当たり前となっている。
よって、政党人は、まるでロボットのようにこき使われて、消耗することも少なくない。
無所属議員の場合は、そのような消耗が無いだけましである。
しかし、望むと望まざるとに関わらず、定期的に選挙に関わっているのか、いないのかは、議員力の足腰を鍛えるという意味では、自ずと差がついてくる。
当然、人の選挙を応援したことがないような、自分の選挙しかしないような無所属議員は、自然と選挙のやり方を忘れ、体力が落ちてくる。逆に政党人は、要所要所で選挙の手伝いを「させられる」が故に、自然と体力はついてくる。
はてさて自分の選挙が終わってから4年後に、その間どのように過ごしたかは、それからの候補者の選挙における体力差となって現れて来るであろう。
そういう意味で言えば、私にとっては都議選の応援とはいえ、今現在が久々の選挙体験となっている。
今日もこんなことがあった。選挙カーを使って駅頭で演説するのだが、うまく場所取りの手配ができていなかったため、急遽、選挙カーに乗っている私が場所取りをすることになった。
選挙カーはすぐそこにあるというのに、目的の場所には別の車が止まっている。
この車を速やかにどかし、次の車が入ってこないようにブロックしながら、静かに選挙カーを誘導し、目的の場所に選挙カーを止めさせるまでが、場所取りの役目である。
選挙カーは後方にいるとはいえ、常にウグイス嬢が候補者のことについて話をしている。そのことからして、選挙カーが近くにいることは、車に乗って前方しか見えていない人にも当然周知されている。
ちょっと張り詰めた空気が流れる。
候補者からは、早く邪魔な車にどいてもらうように交渉しろとの指示が私に飛ぶ。だからといって、止まっている車はそう簡単には動かない。
1台は、客待ちのために泊まっているタクシーである。前方を見ると同様のタクシーがずらりと並んでいる。信号が青になろうが赤になろうが、びくとも動かない。当然、運転手は乗っている車である。
もう1台は、近くに奥様が買い物に行ったために待たされている旦那さんが乗った一般乗用車である。選挙戦特有の雰囲気をいち早く察したのか、私が車に近づいたら、
「私が店に行って呼んできましょうか」
そういって、一刻も早く、「私もこの場所を離れたい」ということをアピールしてきた。
「そうですか。もうすぐ戻られますよね。だったら、このままでも大丈夫ですよ。お帰りになりましたら、すぐに車を移動していただければ、こちらとしては構いませんから」
候補者からは「早く車をどかせ」と言われているが、その表現をそのままドライバーに伝えるわけにはいかない。そのドライバーも当該選挙区の有権者かもしれないのだから。
私は努めて丁寧に、困っていると言うことを充分相手にわからせるように話した。ドライバーが痛いほどの気を遣っているのがよくわかる。
選挙カーの右隣には、やはり別のタクシーが客待ちのため並んでいる。ドライバーが乗っているとはいえ、二重駐車のようになっていて、ますます道路は動けない状態になっていた。
私は候補者の秘書に指示して、とにかく後ろのタクシーが空いたスペース入らないようにブロックするように指示した。
さしずめ私は、選挙カーの場所取りを命じられた、指示する生きた人間パイロンであった。
スペースが空いているので強引に入ってこようとする車があれば、体を呈して止めて、そのスペースは確保しなければならない。突っ込んでくる車に対して、ひるむような性格ではできない。
しかし一方で、謙虚に丁寧に下手に話ができるようでなくてもならない。ここでは誰が有権者で誰が有権者ではないかなど、わかりはしないのだから。
それにしても、前のタクシーが動かないことには、この車も動かないし、その後ろにいる白いワゴン車も動けないし、更に後方で待機している選挙カーも動けない。
白いワゴン車に待ち人が帰ってきて、左車線からの離脱を要求してきた。だからといって、こちらが人間パイロンとして確保したスペースをそう簡単に譲るわけにはいかない。
「この車が動かないと、(白いワゴン車は)出られませんよ」
白いワゴン車が出られないのは、我々のせいではなく、順番待ちの二重駐車をしているタクシーのせいにして、ワゴン車のドライバーをタクシードライバーで直接交渉するように誘導した。トラブルになりかねないような交渉はなるべく直接行わない。こちらは現場に候補者を抱え、名前の大きく入った選挙カーを抱えているのである。
どんなにストレスがたまっても、大声を上げたり、威嚇するようなことはできない。
常に沈着冷静が求められるのである。
そうこうしているうちに、候補者サイドでは、選挙カーが動けないことに業を煮やして、ハンドマイクで演説を始めてしまった。もう時間がないと言うことを暗に示していた。
しばらくして、どうにも動かなかったタクシーの前列が動いた。そこに今、我々にとっては邪魔となっているタクシーを移動してもらって、タクシーがいる場所を確保すれば、場所取りは成功する。
そう思ってタクシーが移動するのを待っていたら、丁度タイミング良く横断歩道前に待機していたそのタクシーのその場から乗り込む客がいた。よって、そのタクシーは左端のラインを外れどこかに消えていこうと車線を変えようとしたときだった。
前方の左端の空いたスペースに、右側に走行車線からバックして入ろうとした車がいた。
「そこのスペース確保して」
誰彼となく、私は同乗していた運動員に対して、大声で指示を出していた。運動員が素早く走って、その場所に同じく人間パイロンとなって、スペースを確保した。
2台分のスペースが一気に空いたことから、やはり奥様がなかなか帰ってこない車に
「(横断歩道を通り越して空いた前のスペースに)車を移動していただけますか」
と聞いて、速やかに車を移動してもらった。
それによって初めて、横断歩道前の選挙カーにとってはベストポジションを確保して、選挙カーをゆっくりと誘導したのでありました。
こんなことはどの陣営でもやっているだろう選挙における日常的な風景の一つに過ぎないだろうが、文章にするとこれだけの長さになる。
このようなこと一つからでも、選挙の空気に時々触れていることが、現職議員にとっては良い刺激になっているのは間違い無い。
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2009年07月05日