ゆでたてパスタを食べて死にかけた経験
普段、料理などしない私だが、全くしないわけでもなく、
家族が不在の時など、我流で料理をしては食事をすることもある。
今日は、何となくパスタが食べたかった。
最近話題の水づけパスタに挑戦しようと、乾麺パスタの容器に水を入れた。容器の中には当然、パスタも入っている。
待つこと50分。レシピには最低でも1時間と書いてあるが、あと10分が待てずに、早速沸騰した鍋の中に、水パスタを入れてゆでることにする。
レシピではゆで時間1分と書いてあったのだが、私はパスタを入れた途端、ぬるくなったお湯が再び沸騰してから2分待つことにした。たった2分のことだ。通常は塩を入れてパスタをゆでるのだが、手抜きして塩ナシでパスタをゆでた。
ゆでたてのパスタは、強烈に湯気を放出しながら、食されることを待っていた。
ゆでたてパスタは、ザルにあけ、ゆで汁を全て捨てた。いつもは、ゆでたパスタにオリーブオイルをかけたりバターをまぶして、ゆであがったパスタ同士がくっつかないような対応をするのだが、その時は手抜きして、何もせずにただ湯気立つパスタをザルの中で放置した。
そのパスタを半分ぐらいに分け皿に盛った。たいして熱くも無い水気の少ないドロッとしたカレーをかけた。
私はいつも大量の水を飲みながら食事をする。これが良くないという専門家はいる。胃液が薄まってしまい、消化を妨げるので身体に悪いというのだ。理屈はわかるのだが、何十年も続けてきた食事スタイルを変えることは普通難しい。この時もいつものように、大きなグラスに水を入れ、その水を飲みながら食事をするはずだったのだが、なぜかそれをしなかった。
かけたカレーの量は少なめだった。そこにカレーが無かったのでは無く、多量のカレーで皿が汚れることを暗に嫌った私の性格が、パスタに少ししかカレーをかけさせなかった。
一皿目を食べ終えて、二皿目を食べるべく、まだ温かさが残る、残り半分のゆでたてパスタを皿に盛った。ゆでたてからしばらく経ったパスタは、ザルの形に固まってまるで大きなお好み焼きのような形状のまま、皿に盛りつけられた。そこにまた少量のドロッとしたカレーをかけて食べた。
この様なパスタをお昼に食べて、16時近くになった頃、急に腹が痛み出した。それでも私が主催する忘年会の告知をすべく、スーツに着替えた私は、忘年会の案内を手にして、支持者宅にあいさつ回りをした。
たった2件ではあるが、忘年会のご案内を渡して帰宅した。
その間も、シクシクと腹の中が痛かった。
帰宅してすぐに私は耐えられない腹痛に襲われた。
スーツを脱いで、トレーナーとスウェットパンツに着替えた。そのまま横になって痛みが引くのを待った。
時々トイレにも行った。何も出てこない。また横になる。またトイレに行く。何も出ない。また横になる。これを何度も繰り返した。
出る物が出ないのだから、下痢のような腹痛では無い。それでも、時々トイレに行きたくなる。出したいのに出せないこの痛みは、普段経験したことが無い便秘のような症状ではないかと推測した。
大抵の病気や痛みは、黙ってじっと耐えていれば自然と治ってしまうものだ。私は普通の日本人らしくなく、病院嫌いの薬嫌いだ。その方が健康に良いし、無駄なお金を使わず、使わせず、社会貢献になっているとさえ思っている。
そんな私が、久々にこれは医者に行かなくてはダメだと思った。
のたうち回るとは、このことを言うのだ。そう実感した。
こんな緊急事態の時に限って、家族は不在だ。
身体が冷える。
この冷えは、とても厚着によって防げる冷えではなかった。
風呂に入るしか無い。
普段湯船に入ることの無い私が、腹痛を和らげるためだけに湯船に入りたくなった。
しかし当然ながら、湯船にお湯は入っていなかった。
湯船にお湯を入れる時間がない。なぜならば、シャワーから出てくる熱めのお湯は、腹部に当てるのが精一杯で、とても湯船に回す余裕が無かったからだ。
風呂の中で椅子に座っているだけでも苦しかった。座るという姿勢が1番楽な姿勢ではないことをこの時知った。シャワーを出しっ放しにしたまま、四つん這いになった。この状態の方がどれだけ腹痛の自分にとっては楽な体勢か。
四つん這いになって、腹にシャワーを当ててみたが、それは楽とは言えない。うなじの部分にお湯を当てて、身体全体が温かくなり、その湯が自然と腹に回るようなお湯のかけ方が、1番楽なお湯のかけ方だった。
10分ほどその姿勢のママお湯をかけ続けた。まだ腹痛は治まらない。しかし、寒気は随分収まって、身体は芯から温まってきた。
まだまだ動きたくは無かったのだが、このままでは身体ごとふやけてしまいそれはそれで都合が悪いと判断し、何とか風呂から出ることを決意した。
「はぁはぁはぁはぁ」
スポーツの後、心臓が高鳴るように動いている息継ぎとは違い、体調不良から来る、止められない息継ぎは、空気を吸うことで何とか次の動作に移れるための原動力になっていた。
家族が帰宅していた。
「大丈夫か」
返事することさえ、苦痛だった。
「とにかく今、死にかけているところだからそっとしておいて」
そういうのが精一杯で、自分の部屋に戻った。
身体を横向きの楽な体勢にして寝た。
30分ほどして、痛みがスーッと引いた。そしてこの貴重な体験を忘れないためにも、今、日記を書いているわけです。
私の腹痛の原因は何だったのか。
素人なりに冷静に考えてみると、ゆでたてパスタを大量に食べたのが良くなかったと推論した。ゆでたてパスタが、水気を吸う吸引力はとてつもない。これはパスタをゆでた経験がある者ならば誰もが知っている当たり前の現象だ。
それをそのままに近い状態で胃に入れたのだから、胃や腸の内壁にくっついて、体内から水分を吸収し始めたのだろう。ゆでたてパスタが、胃腸の内壁にくっついて、必至に水分を吸い上げようとする様を想像して欲しい。
体験者は語る。激痛なんてモノではない。
私なりの想像の合否はともかく、この様に予測したのだ。自分なりに出来る対応は、このゆでたてパスタに、有り余るほどの水分を与えてやればいい。そうすればくっついて離れない胃腸の内壁からも、自然と離れてくれるだろう。
そう思い、私は大きな器に半分の水を入れ、また半分のお湯を入れ、ぬるま湯にして、何度か胃に流し込んだのが、後から考えれば良かったのかも知れない。
まだ痛みが完全に引いたわけではないですが、パソコンを打てるぐらいには回復しました。ただしまた症状が悪化しないとも限りませんので、本日は外出を避け、家でおとなしく過ごすことにします。
独り暮らしの人が、長く生きられないというのは、何かトラブルがあった時に、1人では対応しきれないからだ。家族に限らず、誰か信用できる人と一緒に住む生活スタイルが、逆境を生きる上では有効なのだろうと実感した。
独り暮らしが多い都市部にあって、孤独死はこれからもっと深刻な問題になっていくに違いない。
「死にかけた」などというと大げさに聞こえるだろうが、これこそ体験した者だけが理解する苦しみだと、ご容赦いただきたい。
2009年8月の利尻富士下山時に死にかけた時以来の体験である。
http://www.t-ken.jp/diary/20090811
2013年11月12日