田中けんWeb事務所

江戸川区議会議員を5期18年経験
巨大既存権益組織に斬り込みます!

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日刊田中けん

言葉のない概念(食糧自給率という概念について)

 世の中には、普段気がつかなくてもその場になってみると適当な言葉が無い概念を発見したりする。
 父の父は祖父。祖父の父は曾祖父。曾祖父の父は高祖父。高祖父の父には、的確な言葉が無い。
 1月2日が誕生日の人にとって、1月2日は誕生日。1月は誕生月。では2日はなんと呼べばよいのだろうか。誕生日では1月2日のことを意味するので適当な言い方ではない。そう、言葉がないのである。

 福祉健康部の陳情審査にあたって、世界各国の食糧自給率の資料を私は執行部に要求した。そこで明らかになったことは、各国の食糧自給率が何%であるかということもさることながら、その算出は各国のデータを元に日本が独自に計算した数字が使われていると言うことだった。つまり、日本以外の国には、食糧自給率という概念がないのだ。概念が無いので、それに当てはまる言葉も必要なく、そのような食糧自給率なる数字を計算して公表していないのだ。

 なぜ世界の国では食糧自給率を問題としていないのかとの私の問いに対して、執行部は、他国は食糧自給率が100%を越えているか、または100%に近いので算出する必要が無いのだろうとの見解だった。

 日本が世界にない「食糧自給率」なる概念を持ちだして、ことさら日本の食糧自給率が低いことを強調する裏に何か政治的意図を私は感じる。
 一般的に言えば、食糧自給率は高ければ高いに超したことはない。それに比べ、日本の食糧自給率はあまりにも低い。その事実をことごとく提示することによって、日本における農業振興費の大幅確保(農業関係者における利権確保)が、食糧自給率誕生における、最大の目的なのだろうと私は推察する。

 世界各国で問題視していないように、実は私は日本の食糧自給率の低さをそれほど問題視していない。問題にすべきは自給率の方ではなく、安定供給の方であるとの考えだ。
 「日本の食料戦略と商社」(東洋経済新報社)によると、世界人口の増加に食料生産が追いついていけなくなる構造的、長期的な食糧危機の可能性について、「世界にはまだ食料を増産できる余力が充分に残されている」との見解を示した。
 全世界にある約15億ヘクタールの農地の内2割が休耕地になっている。つまり世界的には、農地は余っていてオーストラリアやカナダのような先進国や途上国がその気になれば、世界人口の増加には十分対応できるという。
 休耕地が発生する理由は、現状でも供給量は十分で、食料価格が低く抑えられているので、手間をかけて増産しても儲からないから休ませているのである。逆に人口増によって、食糧需要がふくらみ、食料の価格が上昇すれば、自然と休耕地にも作付けがなされて、適正な供給が可能となるのである。
 アフリカなどの飢餓問題は、供給不足と言うよりは、分配や調達能力の欠如という面が強く、別問題との見解だ。
 日本でも大震災の時などは、局所的に食糧不足となる地域が発生する。しかし、その問題にしてもその場に食料が無いのは、その場に食料を届けられない流通における何らかの問題(道路や鉄道が崩壊するなど)があるからであって、日本に食料が無いと言うことではない。

 それでも食料自給率が高い方が良いと主張する根拠として「食糧安保論」がある。食料自給率が低いと、戦争のような他国とのトラブルが発生したときに、食料を調達できなくなってしまい、外交上不利になると言う考え方だ。
 私はこの考え方を否定する。なぜか。1979年、ソ連はアフガニスタンに侵攻した。それに制裁を与えるべく、米国はソ連に対して、小麦の禁輸を行った。つまり、食料を軍事物資同様に、戦略的に使ったのである。
 これによってどうなったか。米国はソ連に小麦を売らなくなったので、ソ連は南米から小麦を買ったのである。それによって、南米の農業は活性化した。逆に米国の農家は売る宛のない小麦を大量に抱えてしまい大損している。このような農家の不満が影響したのだろう。小麦禁輸を決定したカーター政権は、1980年の大統領選挙で、レーガンに負けることとなる。
 このように食料を軍事目的で戦略的に使おうとすると、制裁を与えた側が逆にダメージを受けてしまうと言う実例である。

 食料といえども戦略物質にはなり得ず、市場によってその価格は決定される。例え強大であっても大国が、食料を禁輸したところで、外貨を充分に持っている国ならば、多少価格は高くなっても、食料を輸入できなくなると言うことはまずない。
 食料は人間が生きてゆくためには優先度が高い物質である。短期的には、価格が2倍になろうとも3倍になろうとも、真っ先に購入しなければならない物質であろう。しかし、それも一時の混乱時における対応だけ。中長期的には、食料の値段が上がればそれに伴って、一儲けを狙って、供給も増えるのである。
 不況だろうが、景気が悪かろうが、日本の経済は未だGDP世界第2位である。このような条件が変わらない限り、世界中の国々が日本に食料を売ってくれなくなる事態が発生するとは考えにくい。
 
 前述した「日本の食料戦略と商社」を監修した東京大学大学院農学生命科学研究所の川島博之准教授は以下のように言う。
 「食糧自給率は高いに超したことはないが、自給率を上げようとして、余剰のある作物の生産を無理に増やせば、そのつけは最終的には生産者に回ることになる」と警鐘を鳴らしている。

 結論として、日本における食料対策費は、食糧自給率が低いと言われる現状にあっても、そこそこの支出水準で構わないのである。



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2009年11月18日