詐欺罪は金額に応じて重罪とせよ
設問「あなたはいくらもらえたら、何年間刑務所に入ることができますか」
回答者によっては、「1億円で10年間」とか、「10億円で1年間」などと好き勝手に言うことだろう。実際の数字を言わせることによって、具体性を持たせているだけであって、本当はこの設問において、金額はさほど意味がない。1兆円でも、100兆円でも、1京円(100兆円の100倍)であっても構わない。
問題は、あなたが使い切れないお金を手に入れられるとして、その代償として何年間ならば、刑務所に入ることができるのかという、後者の年数にこそ意味がある。
回答者の年齢にもよるだろうが、回答者が10歳の子どもであったとしても、「100年間」と答えることはまず無いだろう。99.9%の確率で、その子の人生は、刑務所の中だけで終わってしまうに違いない。
このように自分の寿命を考えれば、寿命以上の年月を刑務所で過ごしても良いと考えることはまずあり得ない。このように発想すれば、人間の寿命を110歳と仮定して、20歳ならば90年間、30歳ならば80年間のような年月が、一応の上限として考えられる期間設定となるであろう。
一見バカバカしいような設問をあえてしたのは、詐欺師はしっかりと刑務所に入ることを計算した上で、犯罪を行っていると言うことなのだ。つまり読者には詐欺師になったつもりで、物事を考えて欲しかったのだ。
1億円の詐欺で1年間の刑務所暮らしならば、「充分に犯罪を犯す価値がある仕事」として発想し、詐欺師は詐欺を行うのである。単純に考えて年収1億円である。どんなに優秀な人であっても、堅気(かたぎ)で年収1億円を稼ぐような人は希である。
しかし、犯罪者は違う。詐欺は比較的簡単に、年収1億円を可能にしてくれる。もちろん、刑務所暮らしが1年間だけで済むならばと言う都合のよい前提ではあるが。このように考えると、詐欺師にとって、詐欺が「どれだけおいしい仕事」であるか、ご理解いただけると思う。
ここではわかりやすくするために、便宜上、1億円の詐欺罪で懲役が1年間と設定したが、実際はこの程度の懲役刑で済むとは思わない。3年なり、5年なりかかってしまうかもしれない。ただし、詐欺師にとって都合が良いのは、日本における詐欺罪は、どんなに長くても懲役10年までと決まっている。つまり計算上だけで言えば、10年間の懲役を覚悟して、10億円以上の詐欺を行えば、年収1億円以上が、無税で10年間も保証されると言うことなのだ。金額が大きくなればなるほど、詐欺が「おいしい仕事」になるのはこのためである。
もちろん詐欺で得たお金は、没収または追徴されることが法律的には定められている。しかし詐欺師は、巧みに「お金を使ってしまった物語」を作って、全額使ってしまったことにするのである。全額使ってしまった無一文の者に対して、どんなに警察が厳しい捜査をしたところで、無いものは無いのである。払えない人ほど強い人はいない。
そうやって誰も分からない安全な場所にお金を隠し持っている人こそ、一流の詐欺師である。
詐欺は強盗と違って、その行為が詐欺であると被害者に気がつかれるまで、時間的な余裕がある。だからこそ、「全額使ってしまった物語」も作れるし、安全な場所に隠すこともできるのである。
とてもたちが悪いのだ。
このように現在の詐欺罪は、あまりにも軽罪である。社会も警察もなめられたまま、詐欺師のやりたい放題の社会が、日本には存在している。例え逮捕されて懲役刑になったとしても、犯罪者はそれさえ計算して犯罪を行っているのである。刑務所で過ごした日々を、文字通り「おつとめ」としての労働行為とさせないためにも、詐欺の金額に応じて、30年、50年と言ったより長期の懲役刑にすることが必要である。
凶悪犯罪というと、その定義は、警察庁の統計によると「殺人、強盗、放火、強姦」となり、ここに詐欺は入ってこない。凶悪犯罪に対して、世論は重罪を望み、時には「死刑にしろ」という世論が勢いづくことがある。
もちろん凶悪犯罪を社会的に憎む気持ちには変わりないが、真に今、ここで重罪の対象とすべきは、世論がそれを意識している凶悪犯罪ではなく、世論がそれを全く意識していない詐欺なのである。
最近世間を騒がせている年金詐欺に代表されるような不正受給に関しては、もちろんそれを容認する立場にはないが、たかだか数百万円の詐欺であろう。このような貧困を原因とする詐欺を重罰に処する必要はない。
しかし、被害総額1億円を超える詐欺については、重罪として、10年を軽く超える懲役刑にすることが望まれる。少なくとも懲役期間を「おつとめ」として、「おいしい仕事」にさせないだけの重罪を課すべきであろう。
詐欺に対して軽すぎる刑罰は、「そんなに儲かるのならば、私もやってみよう」と、むしろ詐欺を誘発させることにすらなる。近年よく耳にする「振り込め詐欺」などを行う者は、ちゃんとそのあたりの事情を知っている。詐欺を現在のような「儲かる仕事」にしておいてはならない。詐欺は重罪として、簡単に刑務所から出てこられないようにすることが、詐欺を少なくさせ、再発を防止するのである。
頭が良い犯罪者は、凶悪犯罪に分類される強盗などは決して行わない。なぜならば、危険が大きく、割が合わないからである。愚かな者だけが力と欲望に任せて強盗を行い、凶悪犯罪に分類されるのである。
頭が良い者が行う犯罪であるだけに、詐欺が「割の合わない職業」にさえなれば、詐欺は激減する可能性がある。頭がよい彼らのことである。計算の上、重罪に見合った詐欺でなければ、行う理由が無い。賢い犯罪者であるが故に、行政はコントロールしやすいはずなのだ。
近年、詐欺が増えている実態を見ると、これは行政と政治家の怠慢による人災に他ならないのではないかと、私は思うわけである。
社会的必要性を説くならば、今は凶悪犯罪よりも、詐欺こそ重罪にすべきである。
2010年08月30日