橋下知事の黒歴史
橋下知事:弁護士業務停止に 光母子殺害事件のTV発言で
弁護士の橋下徹大阪府知事が、山口県光市の母子殺害事件の被告弁護団を批判し、テレビ番組で懲戒請求を呼び掛けた問題で、所属先の大阪弁護士会(金子武嗣会長)は17日、「品位を害する行為に該当する」として、橋下氏を業務停止2カ月の懲戒処分にしたと発表した。処分は同日付。不服がある場合は日本弁護士連合会に審査請求できるが、橋下氏は同日、請求しない意向を示した。
会見した金子会長は処分理由について「刑事弁護に対する誤った認識、不信感、不名誉感を与えたうえ、多人数の懲戒申し立てがあれば懲戒請求が認められるかのような誤った認識を与えた」と説明した。
橋下氏は知事就任前の07年5月、民放テレビ番組で弁護団を批判。「許せないって思うんだったら、弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたいんですよ」などと発言。同弁護士会によると、弁護団に対し7900件を超える懲戒請求が弁護士会に届いた。この発言について07年12月、市民ら約300人が橋下氏の処分を求めて懲戒請求した。
同弁護士会の綱紀委員会が昨年11月、「弁護士に深刻な精神的被害を負わせ、弁護士会を事務処理に忙殺させる極めて重大な結果をもたらした」と判断。懲戒委員会に審査を求める議決を出し、懲戒委が審査していた。
橋下氏が代表を務める弁護士法人「橋下綜合法律事務所」によると、橋下氏は知事就任後は弁護士業務をしておらず、顧問契約も橋下氏名義から弁護士法人名義に変更。事務所に来るのは月に数回程度で、業務停止の影響は事実上、ないとみられる。
一方、橋下氏は同日午前、大阪府庁で記者団に「僕の品位と(大阪)弁護士会の品位はまったく違う。(処分の基準は)大いに疑問だ。僕は一般府民が感じる品位で動いていく。北新地に行けば、品位のない弁護士は山ほどいる」と不満をまくしたてた。【苅田伸宏、田辺一城】
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政治家としての橋下知事の業績については高く評価する。
しかし、橋下弁護士としての言動については、大阪弁護士会が決定したように、刑事弁護に対する謝った認識を多くの人たちに与えたということは、事実であろう。
現職の弁護士相手に言うのは、「釈迦に説法」で大変恐縮だが、弁護士は、どのような状況であっても、被告人を見捨ててはいけない。たとえその被告人が何人もの人間を殺し、「殺人鬼」の汚名を受けているような人物であったとしてもである。
俗に、家族でさえ見捨てても、決して見捨てないのが刑事弁護人と言われる所以である。
この刑事弁護という仕事を理解せずに、犯罪を憎む素朴な大衆の声に流されてしまうと、刑事弁護という仕事は成立しない。マスコミに大きく影響を受ける大衆による民主主義的な判断で物事では、刑事事件を正確に審判することはできない。マスコミ報道で作られた「極悪人」と言われる被告人たちの弁護など、到底できはしないだろう。
刑事弁護人とは、「鬼畜」と言われる被告人達をも、全身全霊かけて弁護しなければならない。なぜそうするかは、それが「仕事だから」である。日本の国家が制度として認めた「仕事だから」である。
昨今は、足利事件、志布志事件、村木厚子元厚労相局長の事件など、裁判においても、無罪判決が相次いでいる。それでもまだまだ「検察&警察=正義」の風潮は強い。一度逮捕されてしまうと、被疑者は、逮捕されただけで有罪が確定したかのようなマスコミ報道の扱いも受ける。逮捕されただけで、被疑者は二重三重と、厳しい状況に置かれてしまう。その不利な状況から刑事弁護人は出発して、被告人の利益を最大限追求するのだ。
この様に最終的に無罪になるような弁護であれば、弁護士も仕事にやりがいを感じるであろうが、光市の母子殺害事件やオウム真理教や和歌山毒物カレー事件のような被告人達を弁護する弁護人は、相当辛い立場に立たされているに違いない。
警察・検察・マスコミ・そして時には国民と、多くの逆風を前にして、弁護を引き受ける最初から多勢に無勢で、圧倒的に不利な立場にあるのが、刑事弁護人なのだ。それに更に追い打ちをかけるように、そのような刑事弁護人に対して、多くの国民に訴えて、懲戒請求をしたということは、橋下氏の行動は、弁護士の風上にも置けない所業である。
よって、私は、大阪弁護士会による橋下氏に対する業務停止2カ月の懲戒処分は、妥当であると評価する。
政治家としての手腕が素晴らしいだけに、この処分は橋下氏における黒歴史となってしまったが、この様な処分にめげずに、これからは弁護士としてではなく、知事として政治家として頑張っていただきたい。
勝てない戦いはしない。引くときには引く。これこそが、政治家の処世術である。
2010年09月25日