田中けんWeb事務所

江戸川区議会議員を5期18年経験
巨大既存権益組織に斬り込みます!

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日刊田中けん

永井豪記念館

 自分が旅人であり、観光客なので、観光行政にはとても興味が高い。その地で観光を成功させる要素は何か。そんなことを考えながら旅をし続けてきた。
 景色が素晴らしい。それだけでも観光客はやってくる。そう豊かな自然の恵みだ。
 素晴らしいお城がある。それだけでも観光客はやってくる。建築物など、歴史がある町には人が自然と訪れる。


 しかし、これと言って特徴があるわけではない町が観光によって、町おこしをしようとした場合、どうしたらよいのか。私は今回、永井豪記念館を訪ねる前から、実際に自分が訪れたことがある鳥取県境港市を比較対象にしていた。
 妖怪を全面に押し出して、町おこしに成功した境港市のことは、今さら言うまでもない。その成功例と永井豪記念館を擁する輪島市を比べてみた。


 まずは永井豪という作家について私の認識を語っておこう。
 代表作品として、「マジンガーZ」がある。これは、ロボットアニメ史を語る上で重要な作品である。
 ロボットアニメは、手塚治虫の「鉄腕アトム」から始まった。その後、横山光輝の「鉄人28号」のように巨大ロボットとなった。
 永井豪のアイディアが斬新だったのは、アトムのように自ら意志を持つロボットでもなく、鉄人28号のように、外部の指令から動かされるロボットでもなく、操縦者自らがロボットに乗り込んで動かすという形を最初に作ったからだ。
 更に「ゲッターロボ」では、3つの乗り物が1つに合体して巨大なロボットを作り上げるというアイディアを創造した。これも永井豪の業績である。


 前者の操縦者自らがロボットに乗り込むというアイディアがなければ、ガンダムもエヴァンゲリオンも登場しなかった。
 後者の複数の機体が1つに合体して巨大ロボットになるとアイディアがなければ、ガンバスターもアクエリオンも登場しなかったのである。


 とはいえ、マジンガーZはロボットアニメにおける偉大なる功績を残した比較的一般受けする作品ではあるが、永井豪作品はこれだけに留まらない。
 初期の作品には「ハレンチ学園」がある。永井豪の出世作であるが、スカートめくりを流行らせた。この作品は、学校という“神聖な場”を舞台にしながら、性描写と教師批判をしたことが、後にPTAからの格好の攻撃対象となった作品である。
 この様な批判はあれど、学園を舞台にした学園マンガの祖として考えれば、その功績は高く評価されて良い。この後、たくさんの学園ものと言われる作品が登場するのは言うまでもない。


 同じくお色気作品としては「キューティーハニー」が有名である。この作品は、魔法少女による変身スタイルを踏襲しつつ、それを更に発展させ、戦うヒロインというアイディアを確立した。
 男性によるヒーローの変身が、人間とは違う生物やロボットへの変身であるのに対して、女性のヒロインによる変身とは、外見的には“着替え”であり、人間としての外見的特徴は変わらないという違いがあった。
 人間である(キューティーハニーがそうであるように、人間型のロボットだとしても)外見が変わらない以上、着替える過程で全裸になることは、半ば必然でもあったわけだが、その過程を視聴者に見せることで、エロスが発生し、その場面が大いに話題となり、作品を盛り上げた。


 「キューティーハニー」+「ゴレンジャー」
=「セーラームーン」 or 「プリキュア5」
 単純な図式で説明すると、この様に考えて良い。またこの変身シーンがなければ、「リリカルなのは」も誕生しなかったであろう。


 また永井豪作品を構成する要素としては、バイオレンス、つまり暴力も外すことが出来ない。


 デビルマンは人の心と悪魔の力を持つ主人公が悪魔たちと戦う。最終回近くになって、人間たちの反抗とも言うべき“悪魔狩り”によって、人間であるヒロインが疑われ、虐殺されるシーンが登場する。人間は同種の人間を“悪魔”のレッテルを貼って殺す。そこには暗に“人間こそが悪魔そのもの”だというメッセージがあり、読者に問題提起を投げかける。
 同様に暴力的シーン満載な作品としては、「バイオレンスジャック」がある。この作品は、大災害後に生き残った人間たちが、むき出しの暴力によって統治する世界から物語がスタートしている。この舞台設定は、後に続く「北斗の拳」が同じような舞台設定(北斗の拳の場合は、核戦争後だが)をしている。世界の秩序が崩壊し、暴力が支配する世の中が登場するというコンセプトは全く同じなのだ。


 この様に作家の全体像を見てみると、それは必ずしも、有名作家の業績を町おこしに使おうとする者たちが考える“健全さ”だけで構成されているわけでは無いことが一目瞭然となる。
 しかし、それについては境港市も同様の経験をしているはずだ。境港市を妖怪の町にする過程にあって、それでなくてもイメージが暗い山陰地方を、更に暗くするような妖怪をテーマに街作りをすることに異論が無かったとは考えにくい。それなりの議論があったとも聞いている。それを乗り越えて、いや開き直ってとでも言うべきか、妖怪を前面に掲げ町おこしを図った境港市は、今や全国的な町となった。
 もし輪島市が、これまでの輪島塗と朝市と温泉による伝統的な観光地としての“遺産”だけで食べていこうとするのではなく、新しい何かを町の中に取り入れて観光業を構築していこうとすれば、境港市の成功は大いに参考になるに違いない。
「輪島は、輪島塗や朝市で既に有名な観光地だよ」
 そのようにおっしゃる方も多々あるだろう。では、そのような人たちはどれだけ多く輪島に出かけたことがある人たちなのだろうか。私が輪島に向かったときに乗った飛行機の搭乗率は、目算30%と言ったところだった。ガラガラなのである。
 どんなに知名度があっても、この経済不況における日本の観光地の実態とはこの程度のものなのである。

 そうはいえ、永井豪記念館は、2009年にオープンしたばかりの施設だ。今後の展開を大いに注目していきたい。 


 ちなみに前述したマジンガーZはスペインでも放送され、その視聴率たるや80%と言う驚異的な数値を記録している。現地では銅像さえ建っているという。展開次第では、スペインからの観光客だって呼べるのだ。
 これまで何度も語ってきたが、マンガとアニメは、日本が世界に誇れる独自の文化である。この爆発的な潜在能力を色々な形で行政が支援し、共存共栄を図ることが、明日の日本を作っていくのだと、私は確信している。


2010年12月29日