生活保護を巡る問題について
大阪の売れっ子お笑い芸人の母親が、生活保護を受けていた事件が世間を騒がせている。
昨今、政治におけるテーマとして、「税金の無駄遣いを許さない」という風潮がとても強くなっている。その流れの中で、この問題は大きな世論の関心を集めたわけだが、日頃私がよく言うように「福祉費の中にこそ、大きな税金の無駄遣いが含まれている可能性が高いのですよ」
江戸川区の予算が、2,200億円弱ほどあって、福祉費はその内、約半分の1,070億円余である。ちなみに議会費は10億円弱となっている。
オンブズマンの方々に言いたいのは、議員のお金の使い方に、とてもご執心のようで、一つ一つチェックしていただくのは、とてもありがたいことなのだが、どんなに議会費の無駄遣いを追及したとしても、分母は10億円という現実だ。
それに比べ、福祉費は1,000億円。「税金の無駄遣いを許さない」という崇高な目的があるならば、まずは予算の大きい分野から取り組んだ方が、目的の趣旨には合致していると思うのだが、いかがであろうか。
さて私の主張も横道にそれた。要するに、オンブズマンさえも手を出さないほど、福祉費はこれまでも“聖域”として扱われてきたのだ。そして今後も基本的にはこの傾向は変わらないだろう。福祉費が聖域扱いを受けるのは、「福祉費を削減する=福祉を後退させる」という論理展開が有効に機能してきた証拠だ。それによって、福祉予算は守られ、増え続け、同時に税金の無駄遣いの温床にもなってきた。
しかし、尊重すれども聖域とせず。これがこれからの福祉費と対峙する私の立場だ。
今回、生活保護が問題視され、改めて担当者に、生活保護とはどんな制度かを問うてみた。
まず、私が興味を持ったのは、どの範囲まで扶養義務が発生するかであった。現場担当者の回答は直系親族ということだった。同じ質問を部長にしてみた。部長の回答は、三親等以内ということだった。
この回答例の違いから見えてくるのは、法律による厳密な解釈と、実際の現場の傾向とにはギャップがあるということだ。部長見解では、三親等以内だから、額面上は親兄弟はもちろんのこと、おじ、おばも含まれると言うことだ。ただし、これは部長も述べていたが、生活保護の認定は、単純ではないということだ。
たとえ親子であっても、関係が破綻しているケースでは、生活保護の対象になる場合もあるし、三親等外の遠い親族であっても、他の親族がその者の面倒を見ているケースもあるという。だからこそ、現場担当者の見解は貴重だ。
直系親族。
最低限、親、子ども、孫、祖父母の面倒は、余裕がある者が面倒を見なさいという、これも原則的な指導なのだろう。常識的に考えても、同じ扶養義務があるとしても、一親等、二親等、三親等の順で、より義務割合が高くなると考えて良い。
よって、今回の芸人のケースでは、姉や三親等の親族はともかく、母親さえ生活保護にしていたというのは、批判の対象にされても仕方が無いケースだと思われる。
ちなみにこのような“不正受給”は、刑事罰の対象になるのか問うてみた。部長見解では、ならないということだった。では、どのようなケースになれば、刑事罰の対象になるのか。一例として部長が明らかにしたのは、偽名で生活保護を受給し、他の自治体に行って、また生活保護を受給するという二重取りのようなケースは、刑事罰の対象になるという。
偽名で生活保護が受けられること自体、びっくりなのだが、自分の身分を証明するものを持たず、今を生きるか死ぬかのような生活をしている場合は、偽名であろうとも支給しているそうだ。そして、偽名であるが故に、他の自治体に行って、同じような申請をしても、脚が着くことは無い。
つまり、この様な不正受給のケースはさすがに刑事罰の対象になるようだが、実際にこの様な人物がどれだけいるかの全貌把握は難しかろう。
一般論で言えば、税金の使用用途は明らかにしなければならない。しかし、プライバシーの保護、人権を盾に、誰に生活保護が支払われているのか、その実態は公表されていない。ちなみに人権後進国の支那では、個人の倫理観欠如によって制度が崩壊しないように、生活保護のようなお金をもらっている人は、公表するそうだ。
良し悪しはともかく、相互監視が得意な日本人の場合、もし同様な措置が取られていれば、過剰に機能すること間違い無しだろうが。
生活保護に関係する話として、自殺と犯罪についても言及したい。自殺の2大原因は、健康問題とお金の問題である。もし、生活保護のような制度がより適切に機能していれば、世の中には救えた命が、もっとたくさんあるかもしれない。
おおざっぱな認識だが、刑務所に入っている人の半数は貧困が原因で犯罪に走った人たちだ。これもまた生活保護が有効に機能していれば、犯罪を犯さずに済んだ人たちかも知れない。そう既に、刑務所は、実態として、最後の福祉施設になっている。
生活保護の方が、年金よりも良い生活ができるとして、これもモラルハザードを起こす原因となっている。働くことがバカらしく感じてしまうのも、わからなくはない。
貧困問題は、今後ベーシックインカムの議論も踏まえながら、総合的に取り組まれていくことが必要となるであろう。
2012年05月26日